
記事公開:2025.11.26
災害が起きて避難する際には誰しも慌ててしまいますが、要介護者・高齢者であればなおさらです。
体力や判断力にハンデをもつ要介護者・高齢者は「災害弱者」と呼ばれ、災害時避難では危険に直面しやすいほか、転倒や持病の悪化など命に関わるリスクもあります。家族が準備を整えておくことが、安全な避難につながる大切なポイントです。
この記事では、要介護者・高齢者が災害時に避難する際のリスクや、日頃の備えについて解説します。災害に備えて正しい知識と準備を整え、家族とともに安心できる災害時避難の体制を作りましょう。
要介護者・高齢者は、体力・認知機能が低下していること、移動や情報収集に困難を伴うことなどから、災害時のリスクが高いといえます。ここでは、要介護者・高齢者の避難の特性と、要介護者・高齢者ならではのリスクについて解説します。
要介護者・高齢者は、避難行動に時間がかかることが多く、災害発生から避難完了までに大きな遅れが生じがちです。また、加齢に伴う体力低下や認知症などの影響で、避難指示を理解できなかったり、避難経路を把握できなかったりするケースもあります。
さらに、災害時には通常の医療や介護サービスが中断されるため、持病が悪化したり、必要なケアを受けられなくなったりするリスクが高まります。
要介護者・高齢者が避難する際に起こりうる事象と、そのリスクをまとめました。
| 避難時の事象 | 要介護者・高齢者の状況 | リスク |
|---|---|---|
| 避難所までの移動 | ・慌てて移動するため足元が危険 ・段差や階段、混雑 |
・転倒や骨折 |
| 体温調節困難 | ・寒暖差に対する抵抗力や感度が低いため、体温調節が難しい | ・低体温症 ・熱中症 |
| 医療機器や薬の不足 | ・薬を持ち出せない、避難先で調達できない ・在宅酸素や吸引器などの医療機器は停電すると使えなくなる |
・持病の悪化 |
| 避難先での環境の変化 | ・プライバシーの欠如 ・家族と離ればなれになり孤立する |
・不安や混乱 ・ストレスの増大 ・認知症の症状進行 |
これらのリスクは、災害時に被害を拡大させる要因となります。そのため、要介護者・高齢者の避難には特別な配慮と支援が欠かせません。
小倉さんコメント
避難が遅れる別の要因として、高齢者の「住環境」の問題もあります。家が古く耐震性能が低いケースや、体力の低下などで片づけができず、室内が散らかって危険な状態のまま住んでいるケースもあるのではないかと思います。
室内に障害物が多いとその分避難が遅れてしまいますし、万が一自宅内でケガをしてしまうと、その瞬間、移動することが限りなく困難になってしまいます。耐震化、家具転倒防止対策、片づけなど、安全に避難できる住環境を作ることも大事です。
災害が発生するおそれがあるとき、自治体は住民に対して「警戒レベル」にもとづく避難情報を発令します。要介護者・高齢者、あるいは周囲の方たちは、この情報を早めにキャッチして行動することが重要です。
自治体が発令する避難情報は5段階に分かれています。
| 警戒レベル | 行動を促す情報 | とるべき行動 |
|---|---|---|
| 5 | 緊急安全確保 | 命の危険あり、直ちに安全確保 |
| 4 | 避難指示 | 危険な場所から全員避難 |
| 3 | 高齢者等避難 | 危険な場所から高齢者等は避難 |
| 2 | 大雨・洪水・高潮注意報 | みずからの避難行動を確認 |
| 1 | 早期注意情報 | 災害への心構えを高める |
要介護者・高齢者が避難を始める目安は、警戒レベル3「高齢者等避難」です。これは、一般住民よりも早く避難を開始するよう促す段階で、体力や判断力に制約のある方が安全に行動できるよう配慮されています。
情報を受け取る手段は以下のとおりです。これらを組み合わせることで、情報を確実に入手しやすくなります。
<情報を受け取る手段>
・テレビやラジオの緊急放送
・防災行政無線
・緊急速報メール(エリアメール)
・自治体の公式SNSや防災アプリ
小倉さんコメント
高齢者の災害時の課題として「情報からの孤立」が挙げられます。インターネット、携帯電話に不慣れで情報から孤立しやすいということです。
電話で連絡を取るというのも良い手段ですが、災害時にはつながりにくくなるので、できればLINEのような連絡アプリやメールなどの手段も使えるようにしていた方が良いと思います。アプリやメールは使い慣れるということがとても大事なので、普段のコミュニケーションから積極的に活用し、高齢者がそれらを使い慣れているという環境を作りましょう。
要介護者・高齢者が一人で情報を受け取り、理解して行動するのは難しい場合があります。そのため、家族や介護者があらかじめ情報を確認するためのルールを作り、伝え方を話し合っておくことが大切です。
例えば、子ども世代がスマートフォンで情報を確認し、同居する高齢者に声をかけるといった役割分担を決めておくと安心です。NHKやYahoo!、携帯電話キャリア各社では、避難情報をアプリのプッシュ通知やLINEのトークで知らせるサービスを提供しています。自分の暮らす地域だけでなく、別の地域も登録可能なので、離れて暮らす高齢者がいる場合はこうした方法で情報をキャッチし、電話で避難を促すことが大切です。
災害時に慌てず行動するためには、家族や介護者と一緒に避難計画を作り、備えを万全にすることが欠かせません。普段からの準備によってスムーズな避難行動が可能になり、要介護者・高齢者を守ることができます。
避難計画は、頭の中で考えておくだけでなく、文書として「見える化」しておくことが大切です。作成のポイントは以下のとおりです。
<避難計画作成のポイント>
・避難先を決める:自宅から最も近い避難所の場所や状況を確認しておきましょう。
・連絡方法を取り決める:災害時は電話がつながりにくくなるため、SMS(ショートメッセージ)やSNS、災害用伝言ダイヤルなど複数の手段を準備します。いざというときのために、それぞれの手段は普段からスムーズに使えるようにしておくのがおすすめです。
・避難手段を検討する:非常時には自動車が使えない状況も考えられます。徒歩だけでなく、車いすでの移動など、介護が必要な度合いに応じた移動方法を考えることも大切です。
日頃の備えは、定期的な確認が欠かせません。特にチェックしたいポイントは以下のとおりです。
<日頃の備えのポイント>
・非常持ち出し袋:消費期限や電池残量を定期的にチェックし、常に使える状態にしておくことが重要です。
・自宅の安全対策:家具の固定などの転倒対策は家族が行いましょう。また、避難経路に邪魔なものを置かないように片付ける、夜間の避難に備えて停電時にも点灯するフットライトを設置するといった備えは、日常生活にも役立ちます。
・地域とのつながりづくり:防災訓練や交流イベントに参加し、地域での助け合いネットワークを築いておくと、いざというときに心強い支えになります。要介護者・高齢者にどのような助けが必要なのか、近隣の人に知ってもらっておくと安心です。
災害時に要介護者・高齢者を安全に避難させるためには、非常持ち出し袋をあらかじめ準備しておくことが大切です。一般的な防災グッズに加えて、加齢や介護の状況に応じた物品も検討しましょう。
■要介護者・高齢者に必要な非常持ち出し袋の具体例
非常持ち出し袋の中身は一度そろえたら終わりではなく、定期的に確認・更新することが大切です。特に薬や食品は消費期限をチェックし、常に新しいものを入れておきましょう。
小倉さんコメント
防災グッズのうちあまり一般的でないものは、災害時にはとても手に入りにくくなります。そのため、介護用品や高齢者用品など個別に配慮が必要なグッズについては、各家庭で備えておく必要があります。普段使う分にプラスして、多めに備えておきましょう。
また、一般グッズの中でも、健康に大きく影響するからだふきや口腔ケア用品、携帯トイレなどは、多めに備えられると安心です。
避難の際には自宅から近い指定避難所に行くのが原則ですが、要介護者・高齢者にとっては生活環境が合わず、十分なケアを受けられないかもしれません。
そのような場合、要介護者・高齢者は福祉避難所を利用できる場合があります。福祉避難所とは、災害対策基本法施行令によると「災害時において、高齢者、障がい者、乳幼児その他の特に配慮を要する者」が利用できる避難所です。
ここでは、福祉避難所の種類や利用方法について解説します。
福祉避難所には、大きく分けて「指定福祉避難所」と「一般福祉避難所」があります。それぞれの特徴は以下のとおりです。
・指定福祉避難所
指定福祉避難所は警戒レベル3「高齢者等避難」が発令されると開設され、配慮が必要な方と、その介助者・家族が直接入所できます。利用するには、事前に自治体への登録・調整が必要です。
指定福祉避難所は、一般の指定避難所と同様の設備のほか、ポータブルトイレ、手すり、仮設スロープ、医療ケア設備などを備えています。
・一般福祉避難所
一般福祉避難所には直接入所はできず、一度、一般避難所に避難した後、生活が困難と判断された場合に移送されるかたちで利用可能です。ただし、必ずしもすべての災害で開設されるわけではなく、一般避難所に併設される場合もあります。
福祉避難所の利用を考える場合には、利用方法を確認しておきましょう。以下のポイントについて、地域包括支援センターや自治体の防災担当窓口に確認しておくと安心です。
<福祉避難所について確認するポイント>
・住居のある自治体に、福祉避難所がどこに開設されるか
・利用には事前登録や調整が必要かどうか
・介助者や家族も同伴可能か
・必要な医療や介護サービスが提供されるか
避難が無事にできても、避難所生活が続けば要介護者・高齢者の心身に大きな負担をかけます。体調を崩したり、精神的に不安定になったりしやすいため、家族や介護者は継続的なケアに注意を払うことが必要です。
災害時には要介護者・高齢者の身体的なケアが必要です。特に避難所生活になった場合は、以下のような点に注意しましょう。
<要介護者・高齢者の身体的な注意点>
・生活リズムの維持:食事・睡眠・排泄・服薬などを規則正しく行うことで、体調を維持し、持病の悪化を防ぎます。
・感染症や血栓症の予防:避難所では感染症が広がりやすいほか、狭い空間で長時間座ったまま過ごすとエコノミークラス症候群のリスクも高まります。マスクの着用やこまめな清拭を心掛け、可能なら軽い体操をすると効果的です。
・口腔ケア:口腔環境が悪化すると誤嚥性肺炎のリスクが高まります。歯磨きや口腔清拭を続け、口腔衛生を保ってください。
避難生活は長期化する場合もあり、精神的なケアが不十分だと体調悪化につながります。家族や介護者が細やかに配慮し、必要に応じて地域包括支援センターや医療スタッフの支援を受けることが大切です。
<要介護者・高齢者の精神的な注意点>
・ストレスの軽減:避難生活では慣れない環境や人間関係により強いストレスを感じやすく、混乱や不安が増します。可能であれば日中は歩く機会を作ったり、役割をもって動いてもらったりするのがおすすめです。
・認知症高齢者への対応:認知症がある方は、環境の変化によって症状が悪化する場合があります。落ち着ける環境を整え、できるだけ家族や知人の近くで過ごせるように工夫することが重要です。
・安心感を与える工夫:穏やかな言葉遣いや笑顔で接し、安心感を持ってもらうことが大切です。症状の変化がある場合は、必要に応じて専門職に相談しましょう。
小倉さんコメント
災害後のニュースで、高齢者が「老い先短い自分は助からなくてもいい」と言って避難してくれないというようなエピソードをよく目にします。自分の想像を超える災害に対して、生きる意欲の欠如やあきらめといった心理的変化が高齢者の中に起こるのではないかと推測されます。 そうならないために、日頃からコミュニケーションを取り、「避難すれば助かること」、「もし被災したら家族をはじめとして多くの人が悲しむこと」などと伝え、避難の意識を高めるよう働きかけることも大事です。
監修者のご紹介

NPO法人プラス・アーツ
東京事務所長 小倉丈佳さん
2007年プラス・アーツ入社。主に東日本エリアの地域・自治体・企業と協働し、防災に関するイベントや講座などの啓発事業を展開するほか、幼稚園・小学校向け教材の開発、企業の社員向け防災啓発プロジェクトの監修、高齢者向け防災コンテンツの企画、グッズやノベルティの制作など、幅広い事業を手掛けている。
NPO法人プラス・アーツ
■【商品紹介】要介護者・高齢者の非常持ち出し袋におすすめ「アテント」「エリエール」商品
要介護者・高齢者の避難準備では、介護用品や日常的に使い慣れた衛生用品を非常持ち出し袋に入れておくことが重要です。ここでは「アテント」や「エリエール」ブランドから、非常時に役立つ商品をご紹介します。
「アテント 超うすパンツ 下着爽快 エレガントピンクベージュ M」は、下着メーカーのワコールと共同開発したおしゃれなカラーで、下着気分で身につけられるパンツタイプのおむつです。2枚入りのお試しパックなら、持ち運びにもおすすめ。プレミアム伸び・ワザ素材を採用しているから、目立たずフィットします。
「アテント 超うすパンツ 下着爽快 エレガントピンクベージュ M」については、下記のページをご覧ください。
アテント 超うすパンツ 下着爽快 エレガントピンクベージュ M
「アテント 夜1枚安心パンツ パッドなしでずっと快適 男女共用 1200cc M」は、1200ccの吸収量があり、これひとつで長時間快適に過ごせるパンツタイプのおむつです。片手でも着脱できる伸縮性で、ご自身でも上げ下げらくらく。消臭機能付きで、ニオイも気になりにくいのがポイントです。
「アテント 夜1枚安心パンツ パッドなしでずっと快適 男女共用 M」については、下記のページをご覧ください。
アテント 夜1枚安心パンツ パッドなしでずっと快適 男女共用 M
「アテント 夜1枚安心パッドのためのうす型テープ式」は、「アテント 夜1枚安心パッド モレを防いで朝までぐっすり 6回吸収」と組み合わせて使っていただきたいおむつです。「アテント 夜1枚安心パッドのためのうす型テープ式」には<パッドぴったりポケット&ギャザー>が搭載されており、「アテント 夜1枚安心パッド」といっしょに使用することでスキマなくぴったりフィットし、モレを軽減して快適さを維持します。介助があれば座れる方、寝て過ごす時間が長い方におすすめです。
「アテント 夜1枚安心パッドのためのうす型テープ式」については、下記のページをご覧ください。
アテント 夜1枚安心パッドのためのうす型テープ式
「アテント 夜1枚安心パッド モレを防いで朝までぐっすり 6回吸収」については、下記のページをご覧ください。
アテント 夜1枚安心パッド モレを防いで朝までぐっすり 6回吸収
「アテント 温められるからだふき 超大判・個包装タイプ」は、個包装で衛生的に使用できるだけでなく、電子レンジやホットウォーマーで温めることもできるからだふきです。60cm×30cmの超大判で、1枚で全身ふけます。
「アテント 温められるからだふき 超大判・個包装タイプ」については、下記のページをご覧ください。
アテント 温められるからだふき 超大判・個包装タイプ
「アテント からだふき」は、厚手・大判のシートに水分をたっぷり含んだからだふき。要介護者・高齢者の清拭はもちろん、介護する方も入浴が難しいときに全身を清潔に保てます。
「アテント からだふき」については、下記のページをご覧ください。
アテント からだふき
避難所などでの感染対策に欠かせないマスクは、「エリエールマスク ムレ爽快」がおすすめです。長時間の装着でも通気性に優れ、ムレにくく快適さを保ちます。また、独自の「やわらかフィット耳掛け」を採用しており、長時間使用でも耳が痛くなりにくいのが特長です。
「エリエールマスク ムレ爽快」については、下記のページをご覧ください。
エリエールマスク ムレ爽快
要介護者・高齢者は、災害時に特有のリスクを抱える「災害弱者」です。災害時避難には体力・認知機能・医療的ニーズへの配慮が欠かせず、一般住民と同じ行動では安全を確保できない場合があります。
「もしものとき」に慌てないよう、日常の延長として準備を進めておきましょう。家族や地域の協力を得ながら、災害時に安心して避難できる体制を整えることが、要介護者・高齢者の命と暮らしを守る大きな力になります。
要介護者・高齢者の避難の目安は、警戒レベル3「高齢者等避難」が発令された段階です。要介護者・高齢者は避難に時間がかかる可能性があるため、ほかの住民よりも早めに避難を開始することが推奨されています。
一般的な防災アイテムに加え、必要に応じて以下のようなものを準備しましょう。
<要介護者・高齢者がいるご家庭>
・おむつ、おむつ専用の吸水パッド、おしりふき、消臭ゴミ袋
・介護食、とろみ剤
<医療的な配慮が必要な場合>
・常用薬(数日分以上)とお薬手帳
・緊急連絡カード(持病、かかりつけ医、家族連絡先を記載)
・医療機器の予備バッテリー
多くの自治体では、福祉避難所の利用には事前登録や調整が必要です。特に指定福祉避難所は、警戒レベル3の発令時に開設されますが、あらかじめ自治体に登録していないと利用できない場合があります。地域包括支援センターや市区町村の防災担当課に問い合わせて、利用方法を確認しておきましょう。









