その3

認知症における行動・心理症状・BPSMについて

~認知症における行動・心理症状について~

玉井 顯先生

【記事執筆】玉井 顯(たまい あきら)先生

医療法人敦賀温泉病院 理事長・院長
がんばらない介護生活を考える会 賛同人

初めて認知症と向き合う方やご家族の方は、さまざまな不安や心配で戸惑うことばかりかと思います。でも、認知症についての正しい知識があれば、視野が広がり、気持ちに余裕が生まれます。ここでは認知症についてもっと詳しく知りたい方に向けて、知っていただきたい基礎知識をお届けします。

認知症における行動・心理症状(BPSD)

認知症の症状は大きく2つに分けることができます。ひとつは脳の細胞が壊れることによって起こる中核症状です。中核症状には、記憶障害、判断力障害、問題解決能力の障害、実行機能障害、場所や時間、人物などの認識ができなくなる見当識障害、ボタンをはめられないなどの「失行」、道具の使い道がわからなくなる「失認」、ものの名前がわからなくなる「失語」などがあります。
もうひとつは、中核症状によって二次的に引き起こされる行動・心理症状で、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)、最近ではチャレンジング行動と呼ばれています。BPSDには、睡眠障害、幻覚、妄想、道迷い、暴言・暴力、拒食、うつなどがあります。たとえば、財布をしまった場所がわからなくなり、「誰かに盗まれた」と思い込むのはBPSDです。このような「盗られ妄想」は、几帳面な人ほど陥りやすい傾向があります。BPSDはその方の性格や環境などによってもそれぞれ異なり、その理由を理解し適切な対応をとることやリハビリによって改善する可能性があります。

睡眠障害

日中はうとうと寝て、夜は目が覚めてしまっている様子

BPSDの中で一番多い症状が睡眠障害です。アルツハイマー型認知症では、1日の覚醒・睡眠のリズムが弱まり、日中眠気がして、夜は熟睡できない状態になります。ですから、午前中は光を浴び、昼からは適度な運動を行うなど、めりはりのある生活リズムを心がけることが大事です。レビー小体型認知症では、寝言や寝ぼけ行動などの障害がよく起こります。

幻視

幻視のようす。(寝ているベッド脇に子どもが立っている。)

レビー小体型認知症では8~9割に幻視があると言われています。子どもや小さな人が見え、手の届く範囲に近寄ると消えてしいます。この幻視はとてもリアルで、幻視と気がつきにくいのが特徴です。幻視や誤認から被害妄想や嫉妬妄想につながり、暴言・暴力に発展することもあります。

妄想

「通帳を盗られた」とさわぐ様子

妄想はアルツハイマー型認知症の初期に多く、財布や通帳などの「盗られ妄想」や「食べさせてくれない」「お風呂に入らせてくれない」「夫を盗られた」などの被害妄想では身近な人を犯人扱いすることが多いため、同居のご家族にとってはつらい症状です。

道迷い

街中で迷子になっている様子

道迷いは、後頭葉、頭頂葉の障害で、方向がわからなくなって道に迷う場合や、地理的な記憶の障害で道に迷ってしまう場合があります。また、引っ越しやリフォームなどの環境の変化による混乱、不安、抑うつが道迷いにつながることもあります。

暴言、暴力

人は好き嫌いや恐怖など本能的な感情を前頭葉が抑制することで社会生活を営んでいます。ところが認知症で前頭葉の働きが低下すると、抑制が利かなくなって、感情が暴走し、衝動的な言動をしてしまいます。また、プライドを傷つけられたことで、暴言・暴力につながることもあります。

拒食

拒食にはいろいろな原因が考えられます。歯が痛く、食べることを嫌がっている場合もあります。また、視覚失認により食材自体が認識できない場合もあります。うつ状態で食欲がないのかもしれません。食べ物に毒が入っている妄想や、ふりかけが虫に見えたりする誤認により食べられないこともあります。あきらめずに原因を探ることで、食べられるようになることがあります。

排泄のトラブル

認知機能が落ちてくると、トイレの場所がわからなくなったり、排泄行為の意味そのものがわからなくなったりするために、排泄のトラブルが起きてきます。詳しくは「認知症の方の排泄ケアのポイント」をご覧ください。

うつ

落ち込んで家に閉じこもっている様子

認知機能が落ちてくると、トイレの場所がわからなくなったり、排泄行為の意味そのものがわからなくなったりするために、排泄のトラブルが起きてきます。詳しくは「認知症の方の排泄ケアのポイント」をご覧ください。

認知症の治療法と相談先

頼りがいのありそうな医師・看護師の様子

残念ながら、認知症を完治させる治療法はまだ発見されていません。でも、早期に発見して投薬やリハビリなどの適切な治療をすれば、進行を抑え、長期にわたって穏やかな日々を送ることが可能です。もしかして?と気になり始めたら、もの忘れ外来や認知症専門医、認知症疾患医療センターを訪ねてください。地域包括支援センターでも相談にのってもらえます。

【玉井 顯(たまい あきら)先生プロフィール】

医療法人敦賀温泉病院理事長・院長、がんばらない介護生活を考える会賛同人。
金沢医科大学病院神経科精神科講師を経て、福井県敦賀市で、敦賀温泉病院を開設、2009年に認知症疾患医療センターの指定を受ける。
日本老年精神医学会専門医・指導医認定、日本認知症学会専門医、日本精神神経学会精神科専門医・指導医認定。